今回は、2025年4月の海津市議会議員選挙に立候補した私の経験から、地方選挙の流れを紹介します。
想定する読者は、地方選挙に立候補予定の人、立候補を検討している人、有権者の立場で選挙の流れが知りたい人です。
海津市以外の自治体に共通する内容も含まれていると思いますので、参考にしていただければと思います。
選挙の流れ
最初に重要なイベントを発生順に列挙した上で、それぞれについて説明します。
- 立候補予定者説明会(投票日の約1カ月前)
- 立候補届出書類の事前審査(投票日の約2週間前)
- 告示日(投票日の1週間前)
- 選挙期間(告示日から1週間)
- 投票日
- 選挙運動費用収支報告書の提出(投票日から15日以内)
立候補予定者説明会
投票日の約1カ月前、市役所の大会議室において立候補予定者説明会が開かれました。所要時間は2時間ほどでした。
説明会では、主に選挙のスケジュールとルールの説明がありました。また、立候補の届出書類も配られるため、立候補予定者の出席は必須と言って良いと思います。
候補者は、公職選挙法に従って選挙運動を行う必要があります。
公職選挙法と聞くと難しく感じるかもしれませんが、特に注意すべきことは説明会の中で説明がありましたので、それほど難しく考える必要はありません。
2025年4月の海津市議会議員選挙の立候補予定者説明会は、立候補予定者と同伴者を含めて60人を超える出席者がおり、予想に反して説明会は盛況でした。
大会議室の後方には報道関係者が数名いました。報道関係者は「経歴調査表」を配布しており、立候補予定者に対して経歴の提出を求めていました。
無論、説明会に出席したからといって、必ずしも立候補しなければならないわけではありません。
説明会の出席者の人数に対して、告示後の候補者の人数が少なかったので、出席者の中には見物目的の人もいたのではないかと思います。それくらい気軽に出席できる雰囲気がありました。
私は、立候補予定者だけでなく、有権者も説明会に出席すると良いと思っています。
選挙がどのように行なわれているかを知ることで、選挙に対する向き合い方が変わると思うからです。
なお、立候補予定者説明会は、投票日の約2カ月前に市役所のホームページで案内がありました。
興味のある方は、投票日の2カ月前に市役所に問い合わせていただくことをおすすめします。
立候補届出書類の事前審査
候補者の不手際により届出書類が告示日に受理されないことを防止するため、届出書類の事前審査の時間が用意されていました。
事前審査は立候補予定者説明会の約2週間後に3日間確保されており、候補者は予約した日時に市役所に届出書類を持参することで事前審査を受けられました。所要時間は30分ほどでした。
この段階で供託金の納付を行う必要があります。市議会議員選挙の供託金は30万円です。
供託金は、選挙の参加費用のようなもので、一定の得票数が得られたら返還されます。
市議会議員選挙では供託金の返還基準が甘いため、基本的には返還されるお金だと言われています。
具体的には、有効投票数 ÷ 議員定数 ÷ 10 が供託金の没収基準です。
議員定数が15人で投票数が1万5000人の選挙を例にすると、 15,000 ÷ 15 ÷ 10 = 100票 が供託金の没収基準となります。
また、届出書類の中には戸籍謄本(または、戸籍抄本)があります。戸籍謄本は取り寄せるのに時間がかかる場合があるため、時間に余裕を持って取得することをおすすめします。
特に注意が必要なのは選挙運動用ポスターです。選挙運動用ポスターは、サイズと記載事項に制約があります。
その他の書類は不備があってもその場で書き直すことが可能ですが、選挙運動用ポスターは印刷に時間(一般的に1週間)を要するため、事前審査で確認することをおすすめします。
※選挙運動用ビラを配布する人は選挙運動用ビラも同様です。
立候補予定者説明会から事前審査までの2週間で、選挙運動用ポスターの写真撮影、デザイン(印刷業者との打ち合わせも含む)、印刷を行わなければならないため、時間の余裕はないと考えた方が良いです。
私は、写真撮影とデザインを自分で行い、印刷はラクスルに依頼しました。作業時間は1日程度でした。
とにかく時間がなかったので写真撮影は母にスマホを渡して撮ってもらいましたが、にやにや笑われながらの撮影は恥ずかしく、ガッツポーズの拳を握る力が自然と強くなり、結果として力強い写真が撮れました。
自治体によっては選挙運動用ポスターの印刷費用は公費で負担されます。
選挙運動の費用の一部を公費から捻出することで、貧富の差によって立候補する機会の不公平をなくすことが目的です。
なお、海津市では、選挙運動用ポスターの印刷費用は自己負担です。
一般に選挙はお金がかかると言われますので、必ず発生する選挙運動用ポスターだけは海津市でも公費負担があると、立候補のハードルが下がって候補者の質と量が向上し、市民の利益になると私は思います。
その他、告示日まで時間に余裕はないので、立候補の意志が固まっている場合は公職選挙法が定める事前運動に該当しない範囲で選挙の準備を進めておくことをおすすめします。
告示日
告示日には、市役所で立候補の届出を行う必要があります。
立候補の届出が受理されると、正式に候補者となり、選挙運動を開始することができます。
各候補者は、選挙運動の時間を少しでも多く確保するため、開庁時刻に市役所に殺到します。
複数の候補者が同時刻に届出に来た場合、受付順を決めるくじ引きが行われます。冗談みたいな話ですが、受付順を決めるくじ引きの順番を決めるくじ引きも行われます。
つまり、受付順を決めるのにくじ引きが2回行われるのです。選挙の公平を期すため、これほど厳格な手続きが行われているということを知っていただきたいと思います。
私は開庁時刻の8時半に市役所に行きましたが、届出が完了したのは10時過ぎでした。
早い時間に行ってもくじ運が悪いと届出が完了するまでに時間がかかることを覚悟しておく必要があります。
告示日は日曜日ですので、市役所の職員が休日にもかかわらず登庁しており、頭が下がる思いでした。
民主主義の根幹である選挙を支えるために、私たちの知らないところで多くの人が努力していることを忘れてはいけないと思いました。
選挙期間
地方議会議員選挙の選挙期間は、告示日から投票日の前日までの7日間です。
期間が短いため、現職が有利と言われており、候補者は効率的に選挙運動を行う必要があります。
日本の選挙制度は政権交代が起こりにくい仕組みになっているため、あらゆることが遅い反面、安定した政治が行われやすいという利点があります。
選挙期間中は、各候補者は公職選挙法に従って選挙運動を行うことができます。
以下、公職選挙法のあまり知られていないルールを紹介します。
- 告示前に選挙運動はできない。
- 告示前に街頭演説や辻立ちを行う候補者を見かけますが、あれは選挙運動ではなく政治活動として認められているようです。選挙運動と政治活動の線引きは難しいです。
- 走行中の選挙カーでは名前の連呼しかできない。
- うるさいと苦情の多い選挙カーですが、候補者は短い選挙期間で最大限にアピールするため、苦情は理解しながらも名前を連呼するしかないのです。
- 戸別訪問(=家を訪ねて投票を依頼すること)はできない。
- 選挙が近づくと、候補者やその身内が自宅を訪ねてきて投票を依頼されたという話を聞くことがありますが、公職選挙法に違反する行為です。
- 電話による選挙運動は自由にできる。
- 戸別訪問は禁止されていますが、なぜか電話は許可されています。
私が行った選挙運動は、選挙運動用ポスターの掲示と出馬表明の動画をYouTubeに投稿することでした。
私は民間企業で活躍する人が政治に参加できる社会を目指しており、再現性のある選挙運動で当選したいと考えて、街宣活動は意図的に行いませんでした。
結果として、これは失敗でした。出馬表明の動画は選挙期間中に900回再生されましたが、ネット選挙だけでは認知を広げることができず当選には至りませんでした。当選には街宣活動は必須だと考えた方が良いでしょう。
海津市では、選挙運動用ポスターの掲示板は97箇所あります。
私は家族と友人の協力を得て、運転手と掲示係の2人1組の3組で手分けして、3時間かけて午前中に選挙運動用ポスターを貼り終えました。
1人で行うには大変な作業ですので、家族や友人に協力をお願いすることをおすすめします。
投票日
投票日は、選挙運動が禁止されています。候補者にできることは自分に投票することだけです。
20時に投票が締め切られ、21時に開票が始まり、22時半に開票結果が発表されました。
当選者には、翌日の10時半に市役所で当選証書付与式が行われます。
選挙運動費用収支報告書の提出
選挙が終わると、候補者は15日以内に選挙管理委員会に選挙運動費用収支報告書を提出しなければなりません。収支報告書には、選挙運動にかかった費用と収入を記載します。
収支報告書を提出して、候補者としての選挙は完全に終了です。
大規模な選挙を行った場合は非常に大変な作業になります。
私は選挙運動用ポスターの印刷費用しか発生しなかったので、収支報告書の作成は簡単でした。
収支報告書は、選挙管理委員会が3年間保存し、誰でも閲覧できることが公職選挙法で定められています。
他の候補者がどのような選挙運動を行ったのか、費用はどのくらいかかったのか、私は興味があるので収支報告書を閲覧したいと考えています。このサイトでもいずれ紹介したいと思います。
選挙運動の振り返り
私は、2025年4月の海津市議会議員選挙に立候補し、残念ながら落選しました。
立候補予定者説明会から投票日までの約1カ月間の活動を振り返ります。
まず、お金の話をします。選挙はお金がかかると言われています。
私が選挙にかけた費用は、供託金30万円と選挙運動用ポスターの印刷費用3.7万円でした。供託金は没収されることなく返還されたので、実質的な選挙運動費用は3.7万円でした。
私は落選したので説得力に欠けますが、工夫次第でお金をかけずに当選することも可能だと思います。
出馬した前後で私生活に変化はありませんでした。
出馬する前は、有名になって生活しづらくなるのではないか、いたずらや嫌がらせを受けるのではないかと覚悟していましたが、何も変わりませんでした。
裏を返せば、選挙で存在感を示すことができなかったということですので、反省点は多いです。
良かったことを挙げると、同年代が政治に興味を持つきっかけを作れたことです。
身近な人が立候補したことで政治に興味を持つきっかけになったという声を聞きました。
また、勇気をもらったという声も聞き、その一点だけでも立候補して良かったと思えました。
人生において誰かに活力を与える瞬間は滅多に訪れません。政治的な影響力は持てませんでしたが、わずかでも人の役に立てたと考えると嬉しく思います。
反対に悪いことを挙げるとすれば、落選したことで選挙運動用ポスターの印刷費用3.7万円が無駄になったことです。それくらいしか悪いことは思いつきません。
選挙に立候補することは、誰にでもできることですが、誰もやらないことです。貴重な経験が3.7万円で買えたと考えると安いものです。
まとめ
私は、政治に参加する人が多いほど政治の質が高くなると考えています。
投票する人は少ないより多いほうが良い、候補者は少ないより多いほうが良い、と私は考えています。
この記事を読んで、政治に関心を持つ人が増えることを願っています。